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フィンランド剣道紀行—異文化の中の日本文化 驚愕、感動そして感謝

サウナパーティーでのイニシエーション?

 フィンランドではどこのクラブにいっても「サウナパーティー」という歓迎会をしてくれる。この国はサウナの本場であり、サウナに入りながらパーティーをするのである。ヘルシンキの「エラ剣会」での初稽古の後、20名ほどであったろうかサウナパーティーを開いてくれた。これは初めての経験であり、サウナの中でビールを飲むのにはビックリしたが、その中でKari Jaaskelainenというリーダーがいうには「フィンランド人はサウナパーティーの時には必ず外に出て雪の中にダイブする」というのである。外はマイナス20度、もちろん最初は断ったがあまりしつこく言うので、何事も経験とばかり外に飛び出しサラサラのパウダースノーの中に頭から飛び込んだ。寒さも痛さも通り越した表現しようもない強烈な感覚に急いでサウナに引き返した。皆大喜びしてくれたが、ふと気がつくと20名のうち一人(Akseli Korhonen)しか一緒についてきていなかった。Kariになぜ一緒に来なかったと問いただすと、答えは“too cold”(寒すぎる)、次に発した言葉は“Mitori-geiko”(見取り稽古)だった。完敗。

 その二週間後、ラヒティ(Lahti)という地方都市のクラブが開いてくれたサウナパーティーで、今度は湖上に厚く張った氷に穴を開けて作ったプールに入るはめになる。

 その後、彼らとの距離は急速に近くなったような気がする。これはイニシエーションだったのか?

地方巡業

  ヘルシンキに居る間はアパートをあてがってもらい、当初生活習慣の違いに戸惑うこともあったが、慣れれば非常に快適であった。しかし、これが巡業ではない が地方をまわって指導するとなると勝手は違う。先ず、ホームステイをしながらまわるので、最初は非常に気を使う。ホストファミリーとも打ち解け、居心地が 良くなったころには次の町へ移動である。知らない人が迎えに来て、知らない町へ行き、知らない人の家に泊まり、知らない場所で稽古する。数日毎にこれが繰 り返される。なかなか出来ない面白い経験である。

 またその地方のクラブの様子は行ってみなくてはわからない。有段者も多く数十人で盛んに活動している場合もあれば、初心者が4人 でやっている場合もある。剣道の指導は主に基本を中心に行った。特に「木刀による剣道基本技稽古法」は、全ての都市で指導してきた。地方で指導してみて、 これが非常に良く出来たものであるということを実感した。というのは、木刀を使ってこの形そのものを指導することはいうまでもなく、クラブのレベルが行っ てみなければわからない様な状況の中で、つまり事前の準備は無意味でありその場で即座に指導プランを起こさなくてはならないような状態の中で、竹刀をつ かっての稽古においてもこの稽古法の順序通りに組み立てていけば受け手側の理解度という点においてほぼ間違いがなかったからである。

 どこの都市においても、有難いことに、日本人の指導者が来るということで非常に楽しみにしてくれていた。今更ながら、いい加減な気持ちで指導に当たってはいけないと痛切に感じた。

 いずれにせよ毎回、地方巡業のたびに数キロの減量に成功し、ヘルシンキに這うようにして帰っていった。わずか数週間で既にヘルシンキのアパートは、精神的に はマイホームになっていた。そして言うまでもなくヘルシンキでは、ビールとマッカラソーセージによって次の巡業までの間に結果的には数キロの増量を達成し ていた。

ヘルシンキ・キャンプ

 フィンランドに滞在中、地方も含めて数回のキャンプを行ったが、最も規模の大きかったものは3月12日・13日の二日間にわたってヘルシンキで行ったものである。これには日本から来フィンした竹田隆一先生(山形大学)・斎藤浩二先生(仙台大学)・小林日出至郎先生(新潟大学)率いる東北地方の大学生二十数名が参加し、総勢111名という大規模なものとなった。レベル別に班分けし、各先生方にも一班ずつ担当して指導していただいた。基本指導・互角稽古の他、日本の大学生とフィンランド・ナショナルチームの練習試合なども行い、非常に有意義なものとなった。

 彼らは例外なく剣道に対して純粋であり貪欲であり、そしてたくましい。これに関連して一つ驚いたことがあった。このキャンプにはフィンランド全土から剣士が 集まってきたが、彼らは寝袋を持参し体育館のようなところに泊まる。ポリで行われたフィンランド選手権の時もそうであった。勿論ホテルはあるが、ほとんど の者が体育館に寝袋である。聞けばヨーロッパでは、こういったことは珍しくないようだ。ぎりぎりの経費で剣道のキャンプに来るのである。日本ではホテルに 泊まる費用がなければキャンプへの参加は不可能と考えるだろう。しかし彼らは違う。そこまでして貪欲に剣道を習いたいと純粋に思っている。現在指導してい る日本の大学生に、ここまでの純粋さ、貪欲さ、たくましさがあるかどうか考えさせられた出来事であった。

 家族の来フィン

  今回の派遣期間中、四週間にわたって家族もフィンランドを訪問し、一緒に地方にも行くことが出来た。家内と五歳の娘、三歳の息子である。このことは我々家 族にとって非常に有意義であったことはいうまでもない。こういった我がままを受け入れてくれたフィンランド剣道連盟に深く感謝したい。

 途中ホームステイ先で、子供が四十度近い熱を出したり、夜中に鼻血がとまらなくなったりと大変な経験もしたが、サンタクロース発祥の地といわれるロバニエミ(Rovaniemi)と いう北極圏の町で「本当のサンタクロースに会えた」といって喜んでいた子供たちの顔は生涯忘れることが出来ないだろう。これにはちょっとしたエピソードが あった。前年のクリスマス直前、娘に頼まれてサンタクロースに電話をさせられた。父親の威厳を保とうと相手のいない受話器に向かって英語で希望のプレゼン トを伝えたのだが、今回娘の会った本物のサンタクロースは流暢な日本語を喋る。娘の純粋な詰問に大いに慌てた。

 何よりもホストファミリーには大変な迷惑をかけたことと思うが、家族でフィンランドの家庭を経験できたことが良かった。子供たちも多少たくましくなったような気がする。

 また、ヘルシンキのアパートでは、それこそ生活をしなくてはならず、言葉の通じない国で食事の買い物にも苦慮するであろうと思っていたが、案外家内は平然と片言の英語で買い物をし、観光にショッピングにと楽しんでいたようだ。女性のたくましさを再認識した四週間であった。