武道とは、自らの身を守り敵を倒すための技術に由来し、日本における伝統を有しつつその歴史の中で培ってきた文化性を内在しながら、現代日本においては人間形成を目的とした戦技的な運動文化のことを言う。
武道とは何かということについては難しい問題を多く含んでいるが、これを理解する手がかりとして、日本武道協議会1が昭和62年に制定した「武道憲章」2あるいは平成20年に制定された「武道の理念」3がある。これらを踏まえて武道を理解し、あえて記述すると以上のようになる。
基本的には、日本において、近世(江戸時代)以前の戦闘技術である武芸4(武術)が、競技化されたものを武道といっている5。具体的には、柔道、剣道、弓道、相撲、なぎなた(薙刀)がこれにあたる。現在は、これに加えて、近代以降(明治~)に成立した合気道や少林寺拳法のように必ずしも日本における長い伝統を有さないもの、さらには沖縄で中国の影響を受けながら発祥し近代において日本本土に伝わり発展した空手、あるいはフランスから伝わった銃剣の技術をベースとした外来の銃剣道など、日本古来のものでないものまでをも含めて、戦闘技術に由来する運動競技で武道的な精神性に重きをおくものを広く武道6としている。
- 日本武道協議会
日本の各武道種目連盟を統括する団体。昭和52年発足。 - 武道憲章
武道は、日本古来の尚武の精神に由来し、長い歴史と社会の変遷を経て、術から道に発展した伝統文化である。
かつて武道は、心技一如の教えに則り、礼を修め、技を磨き、身体を鍛え、心胆を錬る修業道・鍛錬法として洗練され発展してきた。このような武道の特性は今日に継承され、旺盛な活力と清新な気風の源泉として日本人の人格形成に少なからざる役割を果たしている。
いまや武道は、世界各国に普及し、国際的にも強い関心が寄せられている。我々は、単なる技術の修練や勝敗の結果にのみおぼれず、武道の真髄から逸脱することのないよう自省するとともに、このような日本の伝統文化を維持・発展させるよう努力しなければならない。
ここに、武道の新たな発展を期し、基本的な指針を掲げて武道憲章とする。
第1条(目的)
武道は、武技による心身の鍛錬を通じて人格を磨き、識見を高め、 有為の人物を育成することを目的とする。
第2条(稽古)
稽古に当たっては、終始礼法を守り、基本を重視し、技術のみに偏せず、 心技体を一体として修練する。
第3条(試合)
試合や形の演武に臨んでは、平素錬磨の武道精神を発揮し、最善を尽くすとともに、勝っておごらず負けて悔まず、常に節度ある態度を堅持する。
第4条(道場)
道場は、心身鍛錬の場であり、規律と礼儀作法を守り、静粛・清潔・安全を旨とし、厳粛な環境の維持に努める。
第5条(指導)
指導に当たっては、常に人格の陶冶に努め、術理の研究・心身の鍛錬に励み、勝敗や技術の巧拙にとらわれることなく、師表にふさわしい態度を堅持する。
第6条(普及)
普及に当たっては、伝統的な武道の特性を生かし、国際的視野に立って指導の充実と研究の促進を図るとともに武道の発展に努める。 - 武道の理念
武道は、武士道の伝統に由来する我が国で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化で、柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道を修錬して心技体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う、国家、社会の平和と繁栄に寄与する人間形成の道である。 - 武芸の種類
武芸十八般といって、弓術・馬術・槍術・剣術・水泳術・抜刀術・短刀術・十手術・銑鋧(しゅりけん)術・含針術・薙刀術・砲術・捕手術・柔術・棒術・鎖鎌術・錑(もじり)術・隠形(しのび)術などがあり、これらの総称として武芸あるいは武術といった。 - 武芸近世以前の武芸(武術)流派の技術を、「古武道」として、現代に至るまで継承しているものもある。
- 武道の種類
現在、日本武道協議会という日本武道を統括する団体に加盟している競技団体は、柔道・剣道・弓道・相撲・空手道・合気道・少林寺拳法・なぎなた・銃剣道の九つであり、これらの総称として武道といっている。
文責:酒井利信